「あっつ……」
 妙な寝苦しさに意識が浮上する。まぶたを開くとベッドルームは暗い。たぶん真夜中だ。身体を起こしながら手をやると、首筋に汗で髪が張り付いていた。冷房をつけて寝たはずなのに明らかにおかしい。
「なんでこんなに暑いわけ?」
 その声で、隣で寝ていたキミが目を覚ます。
「ごめん、起こしちゃった?」
 キミは首を横に振った。聞けば目覚めの理由はオレと同じだ。そしてふと、オレはこの異常な暑さの原因に気づく。エアコンが止まっていた。
「暑いわけだね。……って、あれ?」
 つけなおそうとリモコンのボタンを押してみても、エアコンは無反応。何度試しても沈黙したままだ。嫌でも「故障」の2文字が頭をよぎる。
「……最悪」
 深く嘆息して、ベッドの上にリモコンを放った。
「とりあえずちょっと窓開けよっか」
 ベッドから下りて、ベランダへと続く窓を開いた。思いのほかひんやりとした風が舞い込んでくる。今はもう止んでいるけれど、さっきまで雨が降っていたせいかもしれない。
「キミもこっちにおいでよ」
 促すと、キミはベッドの下に落ちていたバスタオルを拾い上げ、素肌に巻きつける。就寝前、お風呂上がりのキミをこのベッドルームに連れ去った名残だ。
「ほら、結構涼しいでしょ?」
 火照った肌を夜風が撫でていく心地良さに、キミは目を細める。だけどすぐに、その肩がふるりと震えた。急に汗が冷えたせいだろう。
「こうしててあげる」
 覆い被さるように、キミを背後から抱き寄せる。するとキミは身じろいで、なぜか距離を取ろうとした。
「あれ、嫌?」
 振り向いたキミは少し困り顔。それで察した。
「そっか。汗、かいてるもんね」
 触れ合った肌は、お互いの汗のせいでぴったりと密着している。
「……でもさ、これってちょっとエッチだよね」
 オレと同じように張り付いたキミの髪を避けて、露わになった首筋に顔を埋める。
「ほら……いつもよりずっと色っぽい匂い」
 「気のせい」と身じろぐキミにくすっとして、今度は軽く口づけた。
「嘘じゃないよ。汗はフェロモンを分泌させるからね。『そういう気分』になるのはある意味当然だよ」
 ちゅっと音を立てて唇を離しただけじゃ物足りずに、何度も口づけては時折舌先でキミの肌を辿る。腕の中のキミが小さく身体をビクつかせるから、可愛くて夢中になった。
「キミも、『そういう気分』になってきた?」
 顔を寄せて耳元で囁くと、キミは予想通り全否定。
「そう。じゃあ、オレが――」
 最後まで言わせてもらえなかった。キミが唐突に今の時間を聞いてきたから。オレは軽く面食らいながら、ベッドの棚に置いたスマホを片手でタップした。 
「……0時を少し過ぎたとこ」 
 言った途端、キミはくるりと身体の向きを変えた。そして「ハッピーバースデー」と呟くと、背伸びをしてオレの唇にキスをする。
「ずいぶん可愛いことしてくれるね。ありがと」
 キミが触れたばかりの唇を、ぺろりと舐める。キミが気恥ずかしそうに視線を逸らすのを見たら、完全にスイッチが入った。
「ねぇ、もっともらっていい?」
 返事を待ってあげるつもりなんてゼロだから、キミの後頭部に手をかけて好きに唇を貪る。もちろん口を閉じさせるつもりも無い。舌で押し入った熱い口内をたっぷりと味わいながら、胸元に手をかけキミの身体を隠すバスタオルを奪い取った。
 汗で湿った肌は滑りが悪いから、そのぶんたっぷりと時間をかけてその感触を楽しむ。キスの波に溺れながら、キミは可愛い声をあげた。
「しーっ、ダメだよ? 外に聞こえちゃう」
 そうさせているのはオレだけど、わざと口に出してキミの羞恥心を最大限に煽る。声を出さないようにキュッと唇を引き結ぶのがいじらしい。
「ほら、静かに。ね?」
 もっとイジワルがしたくなって、するすると手を滑らせた。窓を開け放したまま触れるには中々キワドイ場所にたどり着くと、キミはギュッとオレにしがみついてくる。降参のサインだ。
「大丈夫だよ。キミのその可愛い声は、オレだけのものだから」
 窓を閉じて、キミの腰を強く引き寄せる。二人でドサリとベッドに倒れ込んだ。
「あとで、一緒にシャワー浴びようね」
 エアコンが壊れた密室は、きっとこの後、さらに温度を上げるだろうから――。

〜 fin 〜