竹宮 由貴

新年度。
社会人2年目。
ウチの部署にも新人が配属されて、面倒を見てもらう側から一転、今年は面倒を見る側になった。
バスケを続けられる環境を……って一点のみに拘って決めた就職先で、運よく実業団に所属は出来たけど、とは言え社会人なんでバスケばっかしてりゃ良いってワケにもいかねー。
去年は去年で仕事を覚えるのと練習時間の確保を両立させるのに苦労したが、今年はそれに新人教育もプラス。
去年以上に忙しい日々を過ごすことになるのは、年度が始まって10日足らずで予想がついた。
考えてた以上に自分の時間ってモンの捻出が難しかった去年を振り返って、予め約束してた事だけど、卒業と同時に籍を入れておいてホントに良かったなとしみじみ思う。
新年度がスタートして2週間以上、3週間未満。
今年の誕生日は有難いことに日曜日だ。

「バスケの練習は土曜に丸一日ガッツリやる方向で調整した。どっか遊びに行くか?」

一緒に暮らしている+オレが休みのほとんどを練習に費やしているということもあって、恋人だった頃に比べると2人で遠出をする機会は格段に減っている。
帳尻合せ……ってワケじゃねーけど、普段オレの都合に併せてもらいがちになってんのを補う意味も含めて、誕生日デートってのも悪くねぇ。
そんなオレの考えに反して、彼女が希望した誕生日の過ごし方は『家でお祝い』だった。

「家でって……いつもの休みと変わんねーけど、いいの?」

遠慮してるって風でもなく、彼女はニコニコしながらやりたい事リストを書き出していく。

「『リビングをデコる』『いつもよりちょっと奮発したケーキを食べ比べる』『一緒にご馳走作り』……」

リストの内容は、恋人だった頃にはちょくちょくやってた――誕生日でなくても出来そうだけど、この1年はやってなかった事ばかり。
……口には出さねーけど、寂しい思いをさせてたんだろうか。
彼女の性格的に、言葉にして謝ると更に気を遣うのは判ってるから、反省は心の中に留めて、リストにオレの希望も書き込む。

――そして迎えた誕生日当日。
彼女が用意した風船やらカラフルな三角の旗(ガーランドっつーらしい)やらでリビングを飾り付けて、次は飯の準備。
オレの誕生日恒例・山盛りのから揚げ。今日はこれを2人で作る。
飾り付けの後始末を済ませてキッチンに移動すると、先に準備を始めていた彼女からピンク色のエプロンを差し出された。
普段の飯当番の時は特に『付けろ』とか言わねーのに、何で今日に限って……? 揚げ物ってそんなに汚れるのか? 
色々疑問ではあるが、彼女の口元が心なしか緩んでいるから多分何か意味があるんだろう。
なんて考えながら渡されたエプロンを広げると、そこには懐かしい顔があった。

「この顔……」

左目のハートマークに、これでもかってくらい口角の上がった笑顔。学生時代いつも左腕に付けていたリストバンドと同じキャラクターだ。

「今年の誕生日プレゼントか?」

満足げな顔でケータイを構える彼女にピースを向けて、暫しの撮影タイムに付き合う。
誕生日プレゼントは別に用意しているが、偶然街で見かけて買わずにはいられなかったらしい。誕生日を家で祝う事にしたのも、コレを活用したいが為だったそうだ。

「……そういえば、あのリストバンドもオマエからのプレゼントだったな」

身に着けるのはどうなんだってくらい使い倒して、ボロボロになってからも大事な試合の時にはお守り代わりに身に着けて。
その後も捨てられずに今も押し入れの思い出箱の中に眠ってるリストバンドに思いを馳せながら、恋人だった頃の思い出話に花を咲かせる。
幼馴染っつー形にこだわり続けていたらあり得なかった”今”だ。

幼馴染として十数回、恋人として4回。こっから先は夫婦として祝う回数だけが増えてく。
そんな事実に密かな幸福を感じつつ、夫婦として2回目の誕生日は穏やかに過ぎていった。

【END】