―― 先に図体ばっか成長しちまったモンだから、無駄に苦労してる。餓鬼の頃から変わらず不器用な奴だ  (R.K 37歳/男性/会社経営)

―― いけ好かねぇトサカ頭。全っ然! 1ミリも心当たりないんっすけど、初対面からずーーーっと突っかかってくるんっすよ! そのくせ、お嬢さんたちの前だとスンッてスカしたツラしやがっt……(以下略) (M.A 26歳/男性/会社員)

―― チビの頃から一貫してヒネてっから、逆に扱いやすいな (W先生 ?歳/男性/医師)

 大鳳志桐の一日は、太陽が昇り切った辺りから始まる。
河津・真国とは違い、志桐は体内時計が夜型でセットされている人間だ。
 本命が手に入ったからといって、シノギである夜の店から遠のく訳にはいかず、夜な夜な違う店に顔を出しては、何だかんだで朝まで引き留められるような生活を送っている。
空が白み始めるころに床に就き、窓から差し込む日差しに耐えかねて目を覚ますので、寝起きは大体機嫌が悪い。
 ボーっとした状態のまま台所へ行き、ゼリー飲料と、実家暮らしの恩恵である母の作った味噌汁を飲む。
誰に話しても顔をしかめられる食べ合わせだが、米を食うほど腹は減っておらず、ゼリー飲料だけでは物足りない胃には、この組み合わせが最適なのだ。

 朝食を取ってもまだはっきりとしない頭でダラダラと身支度をしていると、昼食時の恋人から起床確認のメッセージが届く。
以前は秘書の丹からしつこく連絡がきても二度寝を決め込み、見かねた母親から文字通り「叩き」起こされるという散々なサイクルで生きていたが、最近は彼女からのメッセージを見るだけでスッと覚醒するようになった。
 すっきりした頭で手早く残りの身支度を済ませ、他愛もないやりとりを2,3往復していると、タイミングよく丹が迎えに来る。
仕事の連絡・仕事の連絡・彼女への返信・仕事の連絡・彼女への返信……と、移動の合間にいくつかの用事を片付け、会社へ到着。
 名義上は父親が代表の会社だが、デスクワークが嫌いな父は殆ど顔を出さないので、役員に名を連ねている志桐に仕事が回ってくる。
志桐も書類仕事は然程得意ではないものの、同稼業の元子守役の男が似たような業務を平然とこなしていると思うと、やりたくないとも出来ないとも言っていられない。

 志桐にとって、任侠の道へ進むことは生まれた時……否、母の腹の中に居た時からの決定事項だった。
 世襲と言えば聞こえはいいが、親の敷いたレールの上を歩いているとも言い換えられる。
兎角道を外れた者の集まりである界隈において、志桐のような人間は、それなりの資質を示さなければ軽んじられる存在だ。
 そんな環境下で、人情派と評判の組の三姉妹と交友を深めていた志桐少年。
「当代は色好みでも武闘派だが、坊はスケコマシの才しか受け継がなかった」と陰口を叩く者もいたが、当の志桐はそんな言葉を全く気にしていなかった。
喧嘩とは同格の人間同士だから成立するのであって、程度の低い輩はハナから取り合う価値などないというのが、志桐が敬意を払う任侠者から学んだ事だ。
 とは言え、舐められたままというのも次代としてよろしくはないので、あまりにも目に余る輩は、相応の腕力が備わったタイミングで見せしめとして派手に叩きのめしたりもした。
 が、雑音に気を揉むより、年上嗜好な幼馴染の関心をどうやって自分に向けるかの方が、志桐少年にとっては遥かに重要だった。

 思春期のアレコレについては、今更語るまでもない。
若気の至り。黒歴史。アオハル迷走期。一番面倒だった頃。ツンデレを通り越したツンオレサマ時代。
成り行きを見守っていた各方面から今になって色々なお言葉を頂戴しているが、どれも間違ってはいないので、甘んじて受け止めるようにしている。

 こんがらがった縁を半ば強引に解き、ようやく手に入れた初恋は、長い年月を経てドロドロに煮詰まっている分、些細な事でも多幸感を与えてくれる。
恋人からは「チョロい」とからかわれたりもするが、志桐から見れば恋人も同じくらいチョロいのでこの辺はお互い様なのだろう。
付き合いたてなのだ、多少のバカップル仕草は許して欲しい。

 そんな幸福に満ちた日々の中で、目下気がかりなのは――未来の義兄について。
恋人は三姉妹の末っ子なので、将来的に志桐には義理の姉と兄が2組出来る予定になっている。
 1組目の長女と元子守役に関しては、まあ気分次第では義兄と呼んでやらなくもないという気持ちでいるが、問題は次女の相手。
 好いた女への愛情表現をはじめ、自分とは正反対の気質を持つ真国は、志桐にとって昔からいけ好かない存在だった。
詳細を語りだすと長くなるのでこの場では割愛するが、ツンデレを通り越したツンオレサマは、恋心だけでなく全方位に面倒くさい感情を抱えているのである。

 生まれ持っての風格と、見た目に反した紳士性、一貫した捻くれ具合に、隠しきれない深い愛情――それが、大鳳志桐という男。