暦が最後の1枚になる前日、また一つ年を重ねた。

「俺は祝い方なんて判んねぇからな」と困ったような顔をした爺さんに手を引かれ、この家の門をくぐったのは遥か昔。
誕生日が目出てぇ年なんざとうに過ぎているが、この日に限って親父が名指しで用事を言いつけてくるおかげで、オッサンになった今でもこうして賑やかな誕生日を過ごしている。

 聞かれた覚えはねぇのにいつの間にか好物ばかりが並ぶようになった晩飯と、夜通し酒盛りが出来そうなくらいにずらっと並んだ酒。
流石にもう蝋燭の刺さった丸いケーキは出てこねぇが、色とりどりのピースケーキが並んだ箱を目の前に「主役が一番最初に選べ」と言われるのは、何度経験してもこそばゆい気持ちになる。
 先月のはじめ、お嬢を迎えに家を伺った時に、下のお嬢さんから「2人きりじゃなくて良いのか」と聞かれたことがあった。
俺がお嬢の隣を許されたことを踏まえて、お嬢さんなりに気を回してのことだったんだろう。
一時は子守係の真似事を任されていた彼女とこんな話をする日が来るとは……年を取るはずだ。

「お気遣いありがとうございます。世間一般でいうところの恋人同士にとっては、クリスマスなんかと並んで特別なイベントだってのは判ってるんですが……」
「誕生日特権で一つだけ我儘が許されるなら、俺はこれからも変わらず……皆で過ごしたいです」

 祝ってもらうことを前提とした考えにばつの悪さを覚えながらそう答えると、お嬢さんは少し目を見開いたあと、「お姉ちゃんも同じような事を言っていた」と笑いながら去っていった。

「……はっ、流石だな」

 一人残った縁側で、笑いが漏れる。
特に口にしたことは無かったが、年下のクセに時折何枚も上手のような振る舞いをする恋人は、俺の希望などとうにお見通しだったらしい。
下のお嬢さんと入れ替わるように、身支度を整えて現れた彼女の頭を撫でると、当然だが――首を傾げられた。

 始めは親父と姐さんとお嬢さんがたと爺さん。
当時まだ付き合いのあった大鳳組の頭と坊が居た年もあったが、ある年を境に2人とも顔を出さなくなった。
その後爺さんが抜け、次に姐さん。時折大先生と若先生が混じりながら、暫く間が開いて飲み食いする量も騒がしさも1人で2人分なアキが加わった。
 この先も入れ替わりはあるだろうが、傍らには必ず彼女が居てくれて……俺の希望通り賑やかにこの日を祝ってくれることだろう。

任侠モンらしからぬ、なんとも贅沢な誕生日の過ごし方だ。